隠しということになってしまったのでしょう」と、半七老人は云った。「しかし用人や山崎に睨まれて、又蔵はどうも居ごこちが悪くなったと見えて、なにか屋敷の物を持ち出して、提重のお安という女と駈け落ちをしてしまったそうですよ」
「山崎の方は無事に勤めていたんですか」
「それがね。なんでも一年ばかり経ってから、主人に手討ちにされたということです」
「神隠しの秘密が露顕したんですか」
「そればかりじゃありますまい」と、半七老人は苦笑いをした。「旗本屋敷の渡り奉公なんぞしている者はどうも悪い奴が多うござんすからね。こいつらに弱味を掴まれて、執念ぶかく食い込まれると、飛んだことになりますよ。山崎は手討ちになって、奥様は里へ帰されたそうです。子ゆえの闇から悪い奴に魅《み》こまれて、奥様も一生日蔭の身になってしまったんです。考えてみると可哀そうじゃありませんか」
「そうすると、朝顔は息子より阿母《おっか》さんに祟《たた》った訳ですかね」
「そうかも知れません。その屋敷は維新後まで残っていましたが、いつの間にか取り毀《こわ》されてしまって、今じゃ細かい貸家がたくさん建っています」
底本:「時代推理小説
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