まいには疳癪を起して、その小判を引っ掴んでどこへか黙って出て行ってしまった。拾ったと云えばそれまでであるが、小判二枚の出所がなんだか気にかかるので、母子がけさからその噂をしているところへ、半七が調べに来たのであった。
「そうか。よく申し立てた。そんなら娘はおふくろにあずけて置く。又どういうお調べがないとも限らないから神妙にしていろよ」と、半七は二人に云い聞かせた。
お元が政吉をかばっていた仔細も判った。二人は許嫁《いいなずけ》の約束のある仲であった。苦しい生計《くらし》の都合から、お元は許嫁の男にそむいて、他人《ひと》の世話になっていた。それでもあくまで男をかばって、自分が罪におちるのも厭わずに何も知らないと云い張っている。それを思うと、半七もなんだかいじらしくなって来た。ことに二人ながら正直そうな女であるから、このまま放して置いても差し支えはないと思ったので、かれは町《ちょう》役人のところへ行って、よそながら二人を注意するように頼んで帰った。
あくる朝、政吉は雨にぬれて吉原を出るところを大門《おおもん》口で捕えられた。前にも云った馬道の庄太が彼を召捕ったのである。半七は会所に待っ
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