ていて、すぐに政吉を吟味したが、小判の出所については、きのうのお石の話と同じことを申し立てた。
「おとといの晩に下谷の御隠居のあとを追っ掛けて、源森橋の方まで河岸に付いて行きますと、下駄の先にぴかりと光る物がありましたから、提灯の火で透かしてみると、雨のふる中に小判が二枚落ちていました。お届けをすればよかったんですが、叔母のところの苦しい都合も知っていますので、何かの補足《たし》にさせようと思って、ちょうど人通りもないもんですから、それを拾って持って帰りますと、叔母もお元もああいう人間ですから、なんだか気味を悪がってどうしても受け取らないんです。わたしもしまいには自棄《やけ》になって、そんなら勝手にしろとその金をつかんで飛び出して、けさまで吉原で遊んでいました。金はまったく拾ったので、決して物取りなんぞをした覚えはございません」
お石の甥というだけに、この職人も正直そうな人間であった。その申し立てには嘘はないらしく見えた。しかしこの時代でも遺失物は拾いどくという訳ではない。一応は自身番にとどけ出るのが天下《てんが》の法である。もう一つには、彼自身の申し口だけを信用するわけも行かないの
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