ばかり口を利いてすぐに出て行っておしまいなさいました。どの道、御機嫌が悪かったようでございましたから、もし万一これぎりになっては大変だと、わたくしがあとで心配して居りますと、政吉も共々に心配いたしまして、自分のことをおかしく思ってのお腹立ちならばまことに迷惑だから、無理にも旦那をよび戻して来て、よくその訳をお話し申すと云って、わたくしが止めるのを肯かずに、提灯を持って出てまいりました」
「むむ、よく判った。それからどうした」
「やがてのことに帰ってまいりまして……」と、お石は少し云いよどんだが、思い切ったように話しつづけた。
「雨は降るし、真っ暗だもんだから、もう旦那のお姿が見えなくなったと申しました。それから……途中でこんなものを拾ったと云って、小判を二枚……」
叔母とお元との愚痴話を先刻から気の毒そうに聴いていた政吉は、その小判を二人のまえに出して、これで移りかえの支度をしてくれと云ったが、正直なお石|母子《おやこ》は不安に思って、どうしてもそれを受け取らなかった。拾った物は授かりものだと云って、政吉が口を酸《すっぱ》くして勧めても、母子は強情に受け取ろうとしなかったので、彼はし
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