うなことをしたよ。しかしまあ、死んだ者は仕方がねえから、早くその親たちに知らしてやって、諦めさせるのが肝腎だ。今の話の様子じゃあ、それから又いろいろな面倒が起って、若いおふくろまでがなんぞの間違いでも仕出来《しでか》さねえとも限らねえ。死んだ者より、生きたものを助ける工夫が大切だから、これからすぐに木場へまわって、この訳をよく云い聞かせてやらなけりゃあならねえ」
「そりゃあそうです」と、庄太もすぐに同意した。「子供はまだ三歳《みっつ》や四歳《よっつ》じゃあどうにもならねえが、そのおふくろというのはまだ十九だそうだから、間違いがあっちゃあ可哀そうだ」
「若い女房だと思って贔屓をするな」と、半七は笑った。「そんなこと云っていると、今度はてめえが鷲に引っさらわれるぞ」
「おどかしちゃいけねえ。急に薄っ暗くなって来た」
 二人は薄暗い川端をたどって、筏《いかだ》の浮かんでいる木場の町へ足を早めた。

「大体の話はまずこうです」と、半七老人は云った。「その途中で、女房の身を投げるところでも抱き止めれば芝居がかりになるのですが、実録じゃあそう巧くは行きませんよ。はははははは。ともかくも木場へ行って
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