て見た上で、又なんとか分別を付けようと思って、遠い砂村までわざわざ踏み出してみると、やっぱり無駄足にはならねえで、なんの苦もなしに突き当ててしまったんだ。考えてみれば拾い物よ。そのお蝶とかいう娘が、どこかでおふくろにはぐれてしまって、うす暗い処をうろうろしていると、大きな鷲が不意に降りてきて、帯か襟っ首を引っ掴んで宙へ高く舞い上がったに相違ねえ。八郎兵衛新田から十万坪のあたりは人家は少なし、隣りは細川の下屋敷と来ているんだから、誰も見つけた物がねえ。殊にうす暗い時刻ならば猶更のことで、鳥の羽音もなんにも聞いた者はあるめえ。それからどうしたか勿論わからねえが、娘は驚いて気を失ってしまって、もう泣き声も立てなかったんだろう。鷲の奴めも引っ掴んでは見たものの、どうにもしようがねえもんだから、そこら中を飛びあるいて、しまいには掴んだものを宙からほうり出すと、それが丁度に黒沼の屋敷の上に落ちたというわけだろう。早く見付けて手当てをしたらば、運よく蘇生《よみがえ》ったかも知れなかったが、明くる朝までそのまま打っちゃって置いたんだからもう助からねえ。ほんとうに飛んでもねえ災難で、先の長げえ者を可哀そ
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