てくれ」
「馬鹿をいえ。今度|伝馬町《てんまちょう》へ行けば仕舞い湯だ。てめえ達のような下っ引にあげられて堪まるものか。もち[#「もち」に傍点]竿で孔雀を差そうとすると、ちっとばかり的《あて》がちがうぞ。おれを縛りたけりゃあ立派に十手と捕り縄を持って来い」
むやみに気が強いので、半七も持て余した。もうこうなれば忌でも泥仕合いをするよりほかはない。この雪あがりに厄介だとは思ったが、多寡が遊び人ひとりを手捕りするのはさのみむずかしくもない。もう腕ずくで引き摺って行こうと思った。
「やい、寅。てめえのような半端《はんぱ》人足を相手にして、泥沫《はね》をあげるのもいやだと思って、お慈悲をかけてやりゃあ際限がねえ。おれは立派に御用の十手を持っているが、てめえを縛ってから後で見せてやる。さあ、素直に来い」
一と足すすみ寄ると、寅松は一と足さがってふところに手を入れた。岡っ引を相手に刃物などを振り廻すのは素人である。こいつは口ほどでもない奴だと半七はすぐに多寡をくくってしまった。
併しその素人がかえって剣呑であるから、彼は相手の胆《きも》をおびやかすために一つ呶鳴った。
「寅松。御用だ。神妙に
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