ん中の抽斗《ひきだし》をあけようとすると、奥の方に何かつかえているようで素直にあかないんです。変だと思って無理にこじあけると、奥の方に何か書いた紙きれが挟まっていたので、引っ張り出して読んでみると、それが娘の書置なんです。走り書きの短い手紙で、よんどころない訳があって死にますから先立つ不孝はゆるしてくださいというようなことが書いてあったので、おふくろはまたびっくりして、すぐにその書置をつかんで私のところへ飛んで来ました。娘の字はわたくしも知っています。おふくろも娘の書いたものに相違ないと云うんです。して見ると、あのおみよは何か云うに云われない仔細があって、自分で首を縊《くく》って死んだものと見えます。そのことは取りあえず自身番の方へもお届け申して置きましたが、けさも長五郎親分が見えましたから詳しく申し上げました」
「そりゃあ案外な事になったね。そうして、長五郎はなんと云いましたえ」と、半七は訊いた。
「親分も首をかしげていましたが、自滅じゃあどうも仕方がないと……」
「そうさ。自滅じゃあ詮議にもならねえ」
 それからおみよが平素《ふだん》の行状などを少しばかり訊いて、半七はここを出た。
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