担《かつ》ごうとしたね。おめえもずいぶん罪が深けえぜ。おぼえているが好い。はははははは」
 お登久は真っ紅になって、初心《うぶ》らしく小さくなっていた。

     三

 お登久の姉妹《きょうだい》に土産の笹折を持たせて帰して、半七はまだ茗荷屋に残っていた。
「やい、ひょろ松。犬もあるけば棒にあたるとはこの事だ。雑司ヶ谷へ来たのも無駄にゃあならねえ。合羽坂の手がかりが少し付いたようだ。女中をちょいと呼んでくれ」
 松吉が手を鳴らすと、年増《としま》の女中がすぐに顔を出した。
「どうもお構い申しませんで、済みません」
「なに、少しお前に訊きたいことがある。もとは市ヶ谷の質屋の番頭さんをしていた千ちゃんという人が、時々ここへ遊びに来やあしねえかね」
「はあ。お出でになります」
「月に二、三度は来るだろう」
「よく御存じでございますね」
「いつも一人で来るかえ」と、半七は笑いながら訊いた。「若い綺麗な娘と一緒にじゃあねえか」
 女中は黙って笑っていた。併しだんだんに問いつめられて、彼女はこんなことをしゃべった。千次郎は三年ほど前から、毎月二、三度ずつその若い綺麗な娘と連れ立って来る。昼間来
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