と、半七はまた笑った。
「ほんとうに残念でございますね」と、女も笑った。「妹と二人で家をあけちゃあ困るんですけれど、きょうはよんどころない御代参を頼まれたもんですからね。一人で二つ願っちゃあ、あんまり慾張っているようで勿体《もったい》のうござんすから、自分は自分、妹は御代参と、こう役割を決めてまいりました」
「これが病気とでもいうのかえ」
松吉は親指を出してみせると、女は肩を少しそらせて笑った。
「ほほ、御冗談でしょう。可哀そうにこれでもまだお嫁入り前でさあね。御代参をたのまれたのは、町内の古着屋のおっかさんに……。と云い訳をするのも野暮ですが、そこの妹があたしのところへお稽古に来るもんですから」
「じゃあ、そのおっかさんも御信心なんだね」と、半七は何の気もつかずに云った。
「御信心も御信心ですけれど、すこし心配事がありましてね。そこの息子さんが十日ばかりも前から、どこへ行ってしまったか判らないんですよ。方々の卜者《うらない》にみて貰ったら、剣難があるの、水難があるのと云われたそうで、おっかさんはなおなお苦労しているんです。今もお堂で御神籤《おみくじ》を頂いたんですが、やっぱり凶と出
前へ
次へ
全34ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング