も、火の見梯子へ駈けあがって、半鐘をじゃんじゃん[#「じゃんじゃん」に傍点]打《ぶ》っ付けたと見えるんですね。猿公に芝居がかりで悪戯をされちゃあ堪まりませんや。はははははは。わたくしも長年の間、いろいろの捕物をしましたがね、猿公にお縄をかけたのは飛んだお笑いぐさですよ」
「その猿はどうしました」と、わたしは好奇心にそそられて又訊いた。
「その飼主は一貫文の科料、猿公は世間をさわがしたという罪で遠島、永代橋から遠島船に乗せられて八丈島へ送られました。奴は芝居小屋なんぞで窮屈な思いをしているよりも、島へ行って野放しにされた方が仕合わせだったかも知れません。畜生のことですもの、島の役人だって厳重に縛って置いたりするもんですか、どこへかおっ放してしまいますよ」
 猿の遠島――こんな珍らしい話を聴かされて、わたしは今日もわざわざたずねて来た甲斐があったと思った。



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(一)」光文社文庫、光文社
   1985(昭和60)年11月20日初版1刷発行
入力:tat_suki
校正:菅野朋子
1999年6月1日公開
2004年2月29日修正
青空文庫作成ファイル:

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