な風に何でもするので、なかなか金を溜めている奴が多うござんしたよ」
その番太郎のとなりに小さい筆屋があって、その女房が暮れ六ツ(午後六時)過ぎに急に産気づいた。夫婦掛け合いの家で、亭主は唯うろうろするばかりであるので、お倉はすぐに取り上げ婆さんを呼びに行った。そんな使いをたのまれて幾らかの使い賃を貰うのが、番太郎の女房の役得《やくとく》であった。お倉は気丈な女で、殊にまだ宵の口といい、この頃は町内の警戒も厳重なので、かれは平気で下駄を突っかけて駈け出した。取り上げ婆さんの所は四、五町もはなれているので、お倉はむやみに急いで行った。今夜も霜陰りという空であったが、両側の灯はうす明るい影を狭い町に投げていた。すぐに来てくれるように取り上げ婆さんに頼むと、婆さんは承知して一緒に来た。
婆さんはもう六十幾つというので、足がのろかった。頭巾《ずきん》に顔をつつんでとぼとぼあるいて来た。お倉はじれったいのを我慢して、それに附き合って歩いていると、婆さんは何か詰まらないことをくどくどと話しかけた。気の急《せ》いているお倉は上《うわ》の空で返事をしながら、婆さんを引っ張るようにして急いで帰った。町
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