顔をしかめて云った。「どうでしょう。お前さんのお見込みは……」
「そうですねえ」と、半七も首をかしげていた。「実はわたくしも詳しい話は知らないんですが、その権とかいう悪戯小僧じゃないんですね」
「権を縛って置いても、半鐘はやっぱり鳴るんだから仕方がない。で、権は先ず主人の方へ帰してやりましたよ」
 この間からの詳しい事情を家主から聞かされて、半七は眼をつむって考えていた。
「わたくしにもまだ見当が付きませんが、まあ何とか工夫して見ましょう。もっと早く出るとよかったんですが、ほかに急ぎの御用があったもんですから、つい遅くなりました。そこで先ずその半鐘というのを一度見せてお貰い申したいんですが、あがって見ても宜しゅうございますかえ」
「さあ、さあ、どうぞ」
 家主は先に立って表へ出た。半七は火の見を仰いでちょっと考えていたが、すぐにするすると梯子を伝ってのぼった。彼は半鐘をあらためて又すぐに降りて来て、更に近所を見まわった。火の見梯子から三軒ほどゆくと、そこには狭い路地があって、化け物に出逢ったという囲い者のお北はその路地の中程に住んでいた。路地の奥には可なりに広い空地があって、片隅に古い
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