少しおびえたように眼を据えてささやいた。
「お化け師匠は蛇に巻き殺されたんで……」
「蛇に巻き殺された」と半七も驚かされた。
「女中のお村というのが今朝《けさ》になって見つけ出したんですが、師匠は黒い蛇に頸を絞められて蚊帳《かや》のなかに死んでいたんです。不思議じゃありませんか。人の執念はおそろしいもんだと、近所の者もみんなふるえていますよ」
源次も薄気味悪そうに云った。悲惨な死を遂げた歌女代の魂が黒い蛇に乗り憑《うつ》って邪慳な養母を絞め殺したのかと思われて、半七もぞっ[#「ぞっ」に傍点]とした。お化け師匠が蛇に巻き殺された――どう考えてもそれは戦慄すべき出来事であった。
二
「まあ、なにしろ行ってみようじゃあねえか」
半七は先に立って横町へはいると、源次もなんだか落ち着かないような顔をして後から付いて来た。歌女寿の家の前にはだんだんに人立ちが多くなっていた。
「ちょうど若い師匠の一周忌ですからね」
「きっとこんなことになるだろうと思っていましたよ。恐ろしいもんですね」
どの人も恐怖に満ちたような眼をかがやかして、ひそひそと囁き合っていた。そのなかを掻き分けて、半
前へ
次へ
全36ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング