鯉鮒様のほかにいろいろの贋《まが》いものがあって、その符売りは蛇を入れた箱を頸にかけて、人の見る前でその御符で蛇の頭を撫でると、蛇は小さくなって首を縮めてしまうんです。ほんとうの池鯉鮒様はそんな事はありませんが、贋《まが》い者になるとふだんから蛇を馴らして置く。なんでも御符に針をさして置いて、蛇の頭をちょいちょい突くと、蛇は痛いから首を縮める。それが自然の癖になって、紙で撫でられるとすぐに首を引っ込めるようになる。その蛇を箱に入れて持ち歩いて、さあ御覧なさい、御符の奇特はこの通りでございますと、生きた蛇を証拠にして御符を売って歩くんだということです。わたくしがお化け師匠の頸に巻きついている蛇を見たときに、なんだかひどく弱っている様子がどうも普通の蛇らしくないので、ふっとその蛇除けの贋いものを思い出して、試しに懐紙でちょいと押えると、蛇はすぐに頸を縮めてしまいましたから、さてはいよいよ御符売りの持っている蛇に相違ないと見きわめを付けて、それからだんだんに手繰《たぐ》って行くうちに相手にうまくぶつかったんです。え、その坊主ですか。それは無論死罪になりました」
「御符売りはどうなりました」
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