方をすっかり猟《あさ》ってみたが、どこにもそんな御符売りらしい奴は泊っていねえんです。それからそれと探し歩いて、ようよう今朝になって本所の安泊りに一人いるのを見付けたんですが、どうしましょう」
「幾つぐらいの奴だ」
「さあ、二十七八でしょうかね。宿の亭主の話じゃあ、四、五日前から暑さにあたって、商売にも出ずにごろごろしているそうです」
 弥三郎から訊いた男とは年頃もまるで違っているので、半七は失望した。殊に、四、五日前から宿に寝ていると云うのでは、どうにも詮議のしようがなかった。
「そいつ一人ぎりか、ほかに連れはねえのか」
「もう一人いるそうですが、そいつは今朝早くから山の手の方に商売に出たそうです。なんでもそいつは四十ぐらいで……」
 半分聞かないうちに、半七は手を拍《う》った。
「よし。おれもあとから行くから、おめえは先へ行って、そいつの帰るのを待っていろ」
 松吉を先にやって、半七はまた歌女寿の家へ急いでゆくと、下女のお村は近所の人達と一緒に焼き場へ廻ったというので、家には識《し》らない女が二人坐っていた。歌女寿と喧嘩をして帰ったという男について、お村から詳しいことを訊き出そうと
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