た》めて見ましょうか」
「そういえば、お吉は見えねえようだが、どうした」
「今時分は閑《ひま》なもんだから、子供のように表へ獅子舞を見に行ったんですよ。ちょうど誰もいねえから一応あらためて置きましょう。又どんな手がかりが見付からねえとも限りませんから」
「そりゃあそうだ」
「なんでもお吉が受け取って、貸し切りの着物棚のなかへ押し込んだようでしたが……。まあ、お待ちなせえ」と、熊蔵はそこらの戸棚を探して、一つの風呂敷包みを持ち出して来た。濃い藍染めの風呂敷をあけると、中には更に萠黄の風呂敷につつんだ二個の箱のようなものが這入っていた。
「ちょいと下を見てきますから」
熊蔵は階子《はしご》を降りて、又すぐに昇って来た。
「あいつがもし湯から揚がったら、咳払いをして知らせるように、番台の奴に云いつけて置きましたから大丈夫です」
二重につつんだ風呂敷の中からは、一種の溜め塗りのような古い箱が二個あらわれた。箱は能楽の仮面《めん》を入れるようなもので、底から薄黒い平打ちの紐《ひも》をくぐらせて、蓋《ふた》の上で十文字に固く結んであった。幾分の好奇心も手伝って、熊蔵は急いでその一つの箱の紐を解
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