、お城坊主の道楽息子どもや、或いは市中の無頼漢《ならずもの》どもが、同気相求むる徒党を組んで、軍用金などという体裁の好い名目《みょうもく》のもとに、理不尽の押借りや強盗を働くのである。熊蔵の二階を策源地としているらしい彼《か》の二人の怪しい武士も、或いはその一類ではないかと半七は想像した。
「じゃあ、なにしろ明日《あした》おれが見とどけに行こうよ」
「お待ち申しています。午《ひる》ごろならば奴らも間違いなく来ていますから」と、熊蔵は約束して帰った。
あくる朝は七草|粥《がゆ》を祝って、半七は出がけに八丁堀同心の宅へ顔を出すと、世間がこのごろ物騒がしいに就いて火付盗賊改めが一層厳重になった、その積りで精々御用を勤めろという注意があった。これが半七を刺戟して、いよいよ彼の注意を熊蔵の二階に向けさせた。彼がそれからすぐに愛宕下の湯屋へ急いで行ったのは朝の四ッ半(十一時)頃で、往来には遅い回礼者がまだ歩いていた。獅子の囃子《はやし》も賑やかにきこえた。
裏口からそっとはいると、熊蔵は待っていた。
「親分、ちょうど好い処です。一人の野郎は来ています。なんでも湯にへえっているようです」
「そう
前へ
次へ
全34ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング