です。相当に道楽もした奴らだとみえて、茶代の置きっ振りも悪く無し、女を相手に鰯や鯨の話をしているほどの国者《くにもの》でも無し、実はお吉なんぞはその色の小白い方に少しぽう[#「ぽう」に傍点]と来ているらしいんで……。呆れるじゃありませんか。それですから奴らが二階でどんな相談をしているか、お吉に訊いてもどうも正直に云わねえようです。私がきょうそっと階子《はしご》の中途まで昇って行って、奴らがどんな話をしているかと、耳を引っ立てていると、一人の奴が小さい声で、『無暗に斬ったりしてはいけない。素直に云うことを肯《き》けばよし、ぐずぐず云ったら仕方がない、嚇かして取っ捉まえるのだ』と、こう云っているんです。ねえ、どうです。これだけ聞いても碌な相談でないことは判ろうじゃありませんか」
「むむ」と、半七はまた考えた。
 黒船の帆影が伊豆の海を驚かしてから、世の中は漸次《しだい》にさわがしくなった。夷狄《いてき》を征伐する軍用金を出せとか云って、富裕《ものもち》の町家を嚇してあるく一種の浪人組が近頃所々に徘徊《はいかい》する。しかも、その中にほんとうの浪人は少ない。大抵は質《たち》の悪い御家人どもや
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