れるとあぶねえから、その大小はどこへか隠してしまえ」
「そうですね。誰か加勢に呼びましょうか」
「それにも及ぶめえ。多寡が一人だ。何とかなるだろう」と、半七はふところの十手を探った。
二人は息を嚥《の》んで待ち構えた。
四
「いや、馬鹿なお話ですね」と、半七老人は笑いながらわたしに話した。
「今考えると実にばかばかしい話で、それからその武士のあがって来るのを待っていて、熊蔵がそれとなくいろいろのことを訊くと、どうもその返事が曖昧《あいまい》で、なにか物を隠しているらしく見えるんです。わたくしも傍から口を出してだんだん探ってみたんですが、どうも腑に落ちないことが多いんです。こっちももう焦《じ》れて来たので、とうとう十手を出しましたよ。いや、大しくじりで……。はははは。なんでも焦《あせ》っちゃいけませんね。そうすると、その武士も切羽詰まったとみえて、ようよう本音を吐いたんですが、やっぱりお吉の云った通り、その二人の武士は仇討でしたよ」
「かたき討……」と、わたしは思わず訊き返すと、半七老人はにやにや笑っていた。
「まったく仇討なんですよ。それが又おかしい。まあお聴きなさい」
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