いよいよ顔を紅くした。
「でも、去年から遊びにくる二人連れの武士《さむれえ》の一人と、おめえが大変心安くすると云って、だいぶ評判が高けえようだぜ」
「まあ」
「何がまあだ。そこでお前に訊きてえのは他《ほか》じゃねえ。あのお武士衆《さむれえしゅ》は一体どこのお屋敷だえ。西国《さいこく》の衆らしいね」
「そんな話でございますよ」と、お吉はあいまいな返事をしていた。
「それからおめえ気の毒だが、そのうちに番屋へちょいと来てもらうかも知れねえから、そのつもりでいてくんねえよ」
嚇《おど》すように云われて、お吉はまたおびえた。
「親分。なんの御用でございます」
「あの二人の武士に就いてのことだが、それとも番屋まで足を運ばねえで、ここで何もかも云ってくれるかえ」
お吉はからだを固くして黙っていた。
「え、あの二人の商売はなんだえ。いくら勤番者だって、暮も正月も毎日毎日湯屋の二階にばかり転がっている訳のものじゃあねえ。何かほかに商売があるんだろう。なに、知らねえことはねえ。おめえはきっと知っている筈だ。正直に云ってくんねえか。一体あの戸棚にあずかってある箱はなんだえ」
紅い顔を水色に染めかえて
前へ
次へ
全34ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング