引き取るようなことになりまして……。あとで主人に叱られるかも知れません。へへへへへ」
 余程ひどく踏み倒したと見えて、番頭はその引き取り値段を云わなかった。半七の方でも訊かなかった。それにしても彼《か》の武士が持って来るものは、どれもこれも変なものばかりである。第一に干枯《ひから》びた人間の首、奇怪な動物の頭、それからこのきたない泥鮫の皮……。どうしてもこれには仔細がありそうに思われた。
「いや、どうもお邪魔をしました」
 小僧が汲んで来た番茶を一杯飲んで、半七は会津屋の店を出た。それからすぐに愛宕下の湯屋へゆくと、熊蔵は待ち兼ねたように飛び出して来た。
「親分、きのうの若けえ野郎は先刻《さっき》ちょいと来て、又すぐに出て行きましたよ」
「なにか抱えていやしなかったか」
「なんだか知らねえが、長っ細い風呂敷包みを持っていましたよ」
「そうか。おれは途中でそいつに逢った。そこでもう一人の方はどうした」
「背の高い奴はきょうも来ませんよ」
「じゃあ、熊。気の毒だがその伊勢屋とかいう質屋へ行って、金のほかに何を奪《と》られたか、よく訊いて来てくれ」
 こう云い置いて二階へあがると、火鉢の前に
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