半七は云った。
熊蔵は忌々《いまいま》しそうにささやいた。「なにしろ、あの二品をどうするか、私がよく気をつけています」
「もう一人の奴というのはまだ来ねえんだね」
「きょうはどうしたか遅いようですよ」
「なにしろ気をつけてくれ、頼むぜ」
半七はそれから赤坂の方へ用達《ようたし》に廻った。初春の賑やかな往来をあるきながらも、彼は絶えずこの疑問の鍵をみいだすことに頭を苦しめたが、どうも右から左に適当な判断が付かなかった。
「まさか魔法使いでもあるめえ。あんな物を持ち廻って、何か祈祷か呪《まじな》いでもするか、それとも御禁制の切支丹か」
黒船以来、宗門改めも一層厳重になっている。もしかれらが切支丹宗門の徒であるとすれば、これも見逃がすことは出来ない。どっちにしても眼を放されない奴らだと半七はかんがえていた。赤坂から家へ帰って、その晩は無事に寝る。と、あくる朝のまだ薄暗いうち、かの湯屋熊が又飛び込んで来た。
「親分、大変だ。大変だ。あいつらがとうとう遣りゃがった。こっちの手遅れで口惜しいことをしてしまった」
熊蔵の報告によると、ゆうべ同町内の伊勢屋という質屋へ浪人風の二人組の押し込みが
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