けませんでしたよ。袖に血が付いているのを見ると嘘じゃあない。飛んでもないことをしてくれたと思っていますと、それでも当人は澄ましたもので『なあに、大丈夫さ。この頭巾と着物が証拠で、世間じゃあ娘が殺したと思っているに相違ない』と云っているんです。そうして、着物の血を洗って、あすこへほして、きょうも相変らず小屋へ出て行きました」
「いい度胸だな。おめえの情婦《いろ》にゃあ過ぎ物だ」と、半七は苦笑いをした。「だが、正直に何もかもよく云ってくれた。おめえも飛んだ女に可愛がられたのが運の尽きだ。小柳はどうで獄門だが、おめえの方は云い取り次第で、首だけは繋がるに相違ねえ。まあ、安心していろ」
「どうぞ御慈悲を願います。わたしは全く意気地のない人間なんで、ゆうべもおちおち寝られませんでした。大哥の顔を一と目見た時に、こりゃあもういけねえと往生してしまいました。あの女には義理が悪いようですけれども、私のような者はこうして何もかもすっかり白状してしまった方が、胸が軽くなって却って好うございますよ」
「じゃあ気の毒だが、すぐに神田の親分の所まで一緒に来てくれ。どの道、当分は娑婆《しゃば》は見られめえから、ま
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