云った。あの黄八丈は菊村の娘のだろうな。てめえ一体あの娘をどこから連れて来た」
「わたしが連れて来たんじゃないんです」と、金次は哀れみを乞うような悲しい眼をして、相手の顔をそっと見上げた。「実はさきおとといの午《ひる》まえに、小柳と二人で浅草へ遊びに行ったんです。酔うとあいつの癖で、きょうはもう商売を休むというのを、無理になだめて帰ろうとしても、あいつがなかなか承知しないんです。もっともあんな派手な稼業はしていても、銭遣いがあらいのと、私がこのごろ景気が悪いんで、方々に無理な借金はできる。この歳の暮は大御難《おおごなん》で、あいつも少し自棄《やけ》になっているようですから、仕方なしにお守《もり》をしながら午過ぎまで奥山あたりをうろついていると、或る茶屋から若い番頭が出てくる。つづいて小綺麗な娘が出て来ました。それを小柳が見て、あれは日本橋の菊村の娘だ。おとなしいような顔をしていながら、こんなところで番頭と出会いをしていやあがる。あいつを一番食い物にしてやろうと……」
「小柳はどうして菊村の娘ということを知っていたんだ」と、半七は喙《くち》をいれた。
「そりゃあ時々に紅や白粉を買いに行く
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