た清次郎は、その場からすぐに引っ立てられて行った。お竹にはまだ何の沙汰《さた》もないが、いずれ町内預けになるだろうと、彼女は生きている空もないように恐れおののいていた。
「飛んだことになったもんだ」と、半七は思わず溜息をついた。
「わたしはどうなるでしょう」と、お竹はまきぞえの罪がどれほどに重いかをひたすらに恐れているらしかった。そうして「わたし、もういっそ死んでしまいたい」などと狂女のように泣き悲しんでいた。
「馬鹿云っちゃあいけねえ。おめえは大事の証人じゃねえか」と、半七は叱るように云った。
「いずれ御用聞きが一緒に来たろうが、誰が来た」
「なんでも源太郎さんとかいう人だそうです」
「むむ、そうか。瀬戸物町か」
源太郎は瀬戸物町に住んでいる古顔の岡っ引で、好い子分も大勢もっている。一番こいつの鼻をあかして俺の親分に手柄をさしてやりたいと、半七の胸には強い競争の念が火のように燃え上がった。併しどこから手を着けていいのか、彼もすぐには見当が付かなかった。
「ゆうべも娘は頭巾をかぶっていたんだね」
「ええ。やっぱりいつもの藤色でした」
「さっきの話じゃあ、娘はどさくさまぎれに縁側へ抜け
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