ぼり》をはじめた。小幡も松村も立ち会って監視していたが、鮒《ふな》や鯉《こい》のほかには何の獲物もなかった。泥の底からは女の髪一と筋も見付からなかった。女の執念の残っていそうな櫛《くし》やかんざしのたぐいも拾い出されなかった。小幡の発議で更に屋敷内の井戸をさらわせたが、深い井戸の底からは赤い泥鰌《どじょう》が一匹浮び出て大勢を珍らしがらせただけで、これも骨折り損に終った。
 詮議の蔓《つる》はもう切れた。
 今度は松村の発議で、忌《いや》がるお道を無理にこの屋敷へ呼び戻して、お春と一緒にいつもの部屋に寝かすことにした。松村と小幡とは次の間に隠れて夜の更《ふ》けるのを待っていた。
 その晩は月の陰《くも》った暖かい夜であった。神経の興奮し切っているお道は、とても安らかに眠られそうもなかったが、なんにも知らない幼い娘はやがてすやすやと寝ついたかと思うと、忽《たちま》ち針で眼球《めだま》でも突かれたようにけたたましい悲鳴をあげた。そうして「ふみが来た、ふみが来た」と、低い声で唸《うな》った。
「そら、来た」
 待ち構えていた二人の侍は押っ取り刀でやにわに襖《ふすま》をあけた。閉め込んだ部屋の
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