あつた。長男は無論その家を嗣《つ》ぐべく生れたのであるが、次男三男に生れたものは、自分に特殊の才能があつて新規御召出しの特典を享《う》けるか、あるひは他家の養子にゆくか、この二つの場合を除いては、殆ど世に出る見込みもないのであつた。彼等《かれら》の多くは兄の屋敷の厄介になつて、大小を横へた一人前の男がなんの仕事もなしに日を暮してゐるといふ、一面から見れば頗る呑氣らしい、また一面から見れば、頗る悲惨な境遇に置かれてゐた。
 かういふ餘儀ない事情は彼等を驅つて放縦懶惰《ほうじゆうらんだ》の高等遊民たらしめるより他はなかつた。かれらの多くは道樂者であつた。退屈|凌《しの》ぎに何か事あれかしと待構へてゐる徒《やから》であつた。Kのをぢさんも不運に生れた一人で、こんな相談相手に選ばれるには屈竟《くつきやう》の人間であつた。をぢさんは無論喜んで引受けた。
 そこで、をぢさんは考へた。昔話の綱《つな》や金時《きんとき》のやうに、頼光《らいこう》の枕もとに物々しく宿直《とのゐ》を仕つるのはもう時代おくれである。先づ第一にそのおふみと云ふ女の素性を洗つて、その女とこの屋敷との間にどんな絲が繋がつてゐるか
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