やうな顔を皺《しか》めて、しばらく默つてゐた。單に幽靈が出るといふだけの話ならば、馬鹿とも臆病とも叱つても笑つても濟むが、問題が斯《か》う面倒になつて兄が離縁の掛合ひめいた使に來るやうでは、小幡も眞面目になつてこの幽靈問題を取扱はなければならないことになつた。
「なにしろ一應詮議して見ませう。」と小幡は云つた。彼の意見としては、若しこの屋敷に幽靈が出る――俗にいふ化物屋敷であるならば、けふまでに誰かその不思議に出逢つたものが他にもあるべき筈である。現に自分はこの屋敷に生れて二十八年の月日を送つてゐるが、自分は勿論のこと、誰からもそんな噂すら聞いたことがない。自分が幼少のときに別れた祖父母も、八年前に死んだ父も、六年前に死んだ母も、曾《かつ》てそんな話をしたこともなかつた。それが四年前に他家から縁付いて來たお道だけに見えるといふのが第一の不思議である。たとひ何かの仔細があつて、特にお道だけに見えるとしても、こゝへ來てから四年の後に初めて姿をあらはすといふのも不思議である。併しこの場合、ほかに詮議のしやうもないから、差當つては先づ屋敷中の者どもを集めて問ひ糺《ただ》してみようと云ふのであつ
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