が大きいようですよ。」
「そうかしら。」
 私には能く判らなかった。なるほど、小作りの女としては、腹が少し横肥りのようにも思われたが、田舎生れの女には随分こんな体格の女がないでもない。私はさのみ気にも止めずに過ぎた。
 おたけはいくらか文字《もんじ》の素養があると見えて、暇があると新聞などを読んでいた。手紙などを書いていた。ある時には非常に長い手紙を書いていたこともあった。彼女は用の他《ほか》に殆《ほとん》ど口を利《き》かなかった。いつも黙って働いていた。
 彼女は私の家へ来る前に青山の某《ぼう》軍人の家に奉公していたといった。七人の兄妹のある中で、自分は末子であるといった。実家は農であるそうだが、あまり貧しい家ではないと見えて、奉公人としては普通以上に着物や帯なども持っていた。容貌《きりょう》はあまり好くなかったが、人間が正直で、能く働いて、相当の着物も持っているのであるから、奉公人としては先《ま》ず申分のない方であった。諄《くど》くもいう通り、甚《ひど》く温順い女で、少し粗匆《そそう》でもすると顔の色を変えて平謝《ひらあやま》りに謝まった。
 彼女は「だいなし」という詞《ことば》を
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