を張っている。二本ながら高い樹で丁度二階の鼻の先に突き出ているので、この蜘蛛の巣が甚だ眼障《めざわ》りになる。私は毎朝払い落すと、午頃《ひるごろ》には大きな網が再び元のように張られている。夕方に再び払い落すと、明《あく》る朝にはまたもや大きく張られている。私が根よく払い落すと、彼も根よく網を張る。蜘蛛と私との闘《たたかい》は半月あまりも続いた。
私は少しく根負けの気味になった。いかに鉄条網を突破しても、当の敵《かたき》の蜘蛛を打ち亡ぼさない限りは、到底最後の勝利は覚束《おぼつか》ないと思ったが、利口な彼は小さい体を枝の蔭や葉の裏に潜めて、巧みに私の竿《さお》や箒《ほうき》を逃れていた。私はこの出没自在の敵を攻撃するべくあまりに遅鈍であった。
彼の敵は私ばかりではなかった。ある日強い南風が吹き巻《まく》って、松と槙との枝を撓《たわ》むばかりに振り動かした。彼の巣もともに動揺した。巣の一部分は大きな魚に食い破られた網のように裂《さ》けてしまった。彼は例の如く小さい体を忙がしそうに働かせながら、風に揺られつつ網の破れを繕《つくろ》っていた。
ある日、庭に遊んでいる雀が物に驚いて飛び起《
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