ません。もしや誰かが雷に撃たれたのかと、怖いものを見たさに駈けて行きますと、案の通り、そこには若い女が倒れているのでございます。
 女は雨やどりをするつもりで銀杏の下へ駈け込んだのか、それとも、ちょうど銀杏の下を通りかかったのか、いずれにしても、その木に雷が落ちたために、女も撃たれて死んだらしいのです。
 雷に撃たれて死んだ人を生れてから初めて見て、わたくしは思わずぞっとしましたが、もう一つ驚かされたのは、倒れている女の右の腕あたりにかなり大きい一匹の青い蛇が長くなって死んでいることでした。
 そこらにいた人たちの話では、その蛇は銀杏の洞《うつろ》のなかに棲んでいたものだろうということで、勿論その女に関係はないのでしょうが、なにしろ若い女が髪をふり乱して倒れている。その腕のあたりに長い蛇が死んでいるというわけですから、わたくしはまたぞっとしました。
 それだけで逃げて帰ればよろしいのですが、唯今も申す通りに怖いもの見たさで、わたくしは怖ごわながらそっと覗いてみると、その女の顔には見覚えがあります。年のころは二十二、三の粋な女――きのうのお午ごろ、叔父と一緒にわたくしの家のまえに立ってい
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