を調べて見たらば可《よ》かろうとの事。成ほど、そんな事があるかも知れぬと、侍女《こしもと》下女を一々取調べた所が、果してその中に池袋生れの者があったので、当人の知った事ではあるまいが、兎も角もこれに長の暇《いとま》を出して、さてどうであろうとその後の模様を窺うと、石は相変らず降る。エエ何の事だ、池袋も的《あて》にはならぬと愚痴を飜《こぼ》していると、それから二日経ち、三日経つ中に、石は次第に数が減って、五六日の後には一個も降らぬようになったのも不思議、しかもその後には何の怪異《あやしみ》もなかったことはいよいよ不思議。で、右の怪異は全く池袋の祟と一決して、一同もホッと息を吐いたと云う。
 以上は紛れもなき事実で、現在これを目撃した人の談話《はなし》をそのまま筆記したものである、しかしそれが果して池袋の祟であるや否やは勿論保証の限《かぎり》でない。今日でも北豊島に池袋村という村は存在しているが、当時は曾てそんな噂を聞かぬ。けれども、江戸時代には専らそんな説が伝えられたのは事実で、これに類似の奇談が往々ある。で、名奉行と聞えた根岸肥前守の随筆「耳袋」の中にも「池尻村とて東武の南、池上本門寺
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