合せな女に生まれながら、自分はお前というものに取りすがって、今日までこうして生きていたのである。そのお前にいよいよ別れる日が近づいて、自分の心はとうから死んだも同様であった。日本じゅうに二人とない、頼もしい人に引き分かれて、これから先の長い勤め奉公をとても辛抱の出来るものではない。店出しの宵からお前の揚げ詰めで、ほかの客を迎えたことのないわたしは、どこまでもお前ひとりを夫《おっと》として、清い女の一生を送りたいと思っている。それを察して一緒に殺してくれと、彼女は男の膝の前に身を投げ出して泣いた。
半九郎も女の心を哀れに思った。彼も惨《いじ》らしいお染のからだを濁り江の暗い底に長く沈めて置きたくないので、重代の刀を手放しても、彼女を救いあげて親許へ送り帰してやりたいと思っていた。その志は空《くう》になって、しかもその刀で人を殺すような破滅に陥《おちい》った。こうなるからはいっそのこと、女を殺すのは却《かえ》って女を救うので、いわゆる慈悲の殺生《せっしょう》であるかも知れないと考えた。
そう思って、彼は自分の前に俯伏《うつぶ》している若い女の細く白いうなじを今更のようにじっ[#「じっ」
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