午後十二時)の鐘の音が水にひびいた。半九郎は仄暗《ほのぐら》い灯の前に坐って、自分の朋輩の血を染めた刃《やいば》に、更に自分の血を塗ろうとした。それが自分の罪を償《つぐの》う正当の手段であると考えた。
彼がその刀を把《と》り直した時に、屏風のかげから幽霊のような女の顔があらわれた。お染はいつの間にか忍んで来ていたのであった。
「お染。聞いていたのか」
お染はそこに泣き伏してしまった。
「市之助はおれに隠れろと言う。しかし半九郎にそんなうしろ暗いことは出来ぬ。正直に今ここで切腹する。若松屋のお染の客は人殺しとあすは世上《せじょう》に謳《うた》われて、お身も肩身が狭かろうが、これも因果《いんが》だ。堪忍してくれ」
「あの、わたしも一緒に死なして下さりませ」と、彼女は涙をすすりながら言った。
「いや、それは無分別。由《よし》ない義理を立てすごして、この半九郎に命までもくれようとは、親姉妹《おやきょうだい》の嘆きも思わぬか。おれには死ぬだけの罪がある。お前には何の係り合いもないことだ。知らぬていにして早く彼方《あっち》へゆけ」と、半九郎は小声で叱った。
叱られても彼女は動かなかった。不仕
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