が迎いに来た時に、おれが素直に戻れば何事もなかったものを……。思えばおれにも罪はある。今更お身を討ち果したとて、死んだ弟が返るでもない。おれは知らぬ振りをしているから、お身はどこへでも早く逃げろ。ここらにうろうろしていては詮議がむずかしい。京を離れたところへ身を隠してしまえ。おれはこれから河原へ行って、弟の死骸を始末して来る。そのあいだに支度しろ」
こう言い聞かせて市之助はすぐに寝衣をぬいだ。着物を着換えて袴を穿いて、大小を腰に差して、急いで表へ出て行った。
取り残された半九郎は、両手を膝において暫く考えていた。
自分を免《ゆる》してくれた市之助の料簡は、彼にもよく判っていた。しかしそれは市之助だけの料簡で、仲のいい朋輩を殺して置いてただそのままに逃げてしまうというのは、自分としては忍ばれないことであった。しょせん自分は逃れることの出来ない罪を背負っている以上、なまじいに逃げ隠れをして捕われるのは恥の上塗《うわぬ》りである。兄が弟の仇を討たぬというならば、自分はいさぎよく自滅するほかはない。半九郎は切腹と決心した。
初冬の夜もしだいに更《ふ》けて、清水寺《きよみずでら》の九つ(
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