に傍点]と眺めた。ふさふさと黒く光った美しい髪の毛を見つめた。今まで彼女を愛していたとはまた一種違った温かい感情が彼の胸にだんだん漲《みなぎ》って来て、総身の若い血潮が燃えあがるようにも感じられた。
 半九郎がお染に対して、こうした不思議な感じを覚えたのは実に今夜が初めてであった。今夜の半九郎の眼に映ったお染は、遊女のお染ではなかった。清いおとめのお染であった。武士の妻としても恥かしからぬ一人の清いおとめであった。半九郎は言い知れない幸福を感じた。
「お前の心はよく判った。もう泣くな」と、半九郎は女の肩に手をかけて引き起した。
「あい」
 お染はおとなしく顔をあげた。彼女の眼には涙の玉が美しく光っていた。

 二人はその屍《かばね》を揚屋の座敷に横たえようとはしなかった。源三郎のあとを追って、屍を河原に晒《さら》そうともしなかった。いかなる人も遂にゆく鳥辺の山をかれらの墓と定めて、二人はそっと花菱をぬけ出した。
 後の作者は二人が死《しに》にゆく姿をえがくが如くに形容して、お染に対しては「女《おんな》肌には白|無垢《むく》や上にむらさき藤の紋、中着《なかぎ》緋紗綾《ひざや》に黒繻子《く
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