これへ来いと言え」と、半九郎は寝ころんだままで言った。
 若党の八介はお雪に案内されて来たが、満座の前では言い出しにくいと見えて、彼は主人を廊下へ呼び出そうとした。
「旦那さま。ちょっとここまで……」
「馬鹿め」と、半九郎はやはり頭をあげなかった。「用があるならここへ来い」
「は」と、八介はまだ躊躇していたが、やがて思い切って座敷へいざり込んで来た。
「用は大抵判っている。迎いに来たのか」と、半九郎は不興らしく言った。
「左様でござります」
 御用の道中であるから銘々の荷物は宿々《しゅくじゅく》の人足どもに担がせる。その混乱と間違いとを防ぐために、組ごとに荷物をひと纏めにして、その荷物にはまた銘々の荷札をつける。それを今夜じゅうにみな済ませて置けという支配頭からの達しが俄かに来た。八介一人では判らないこともあるから、ひとまず帰ってくれというのであった。
「うるさいな。あしたでもよかろうに……」
「でも、一度になっては混雑するから、今夜のうちに取りまとめて置けとのことでござります」
「市之助。お身は帰るか」と、半九郎は酔っている連れにきいた。
「弟が何とかするであろうよ」と、市之助は相変
前へ 次へ
全49ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング