らず横着を極《き》めていた。
「よい弟を持って仕合せだ。おれはちょっと戻らなければなるまいか」
 半九郎はしぶしぶ起き上がって、八介と一緒に出ると、お染は角《かど》まで送って来た。
「お前さま。もうこれぎりでお戻りになりませぬかえ」
「いや、戻る。すぐまた戻って来る。待っておれ」
 酔っていても半九郎はしっかりした足取りで歩いた。宿所へ帰って、彼は八介に指図して忙がしそうに荷作りをした。さしたる荷物もないのであるが、それでも一※[#「日+向」、第3水準1−85−25]《いっとき》ほどの暇を潰して、主人も家来もがっかりした。表では雨の音がはらはら[#「はらはら」に傍点]聞えた。
「旦那さま。降ってまいりました」
「降って来たか」
「昼から催しておりました。今のうちに降りましたら、お発ちの頃には小春|日和《びより》がつづくかも知れませぬ」
 道中はともかくも、今夜の雨を半九郎は邪魔だと思った。彼は落ち着かない心持ちで、すぐにまた表へ出ようとした。
「またお出掛けでござりますか」と、八介は暗い空を仰ぎながら言った。
 酔いは出る、からだは疲れる。半九郎はもうそこに寝ころんでしまいたかったが、
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