を帰してやると言ったが、市之助は花菱に酔い潰れて帰らなかった。その以来、源三郎はいよいよ半九郎を信用しなくなった。日ごろの親しみは頓《とみ》に薄らいで、彼は半九郎を兄の悪友と認めるようになった。
その半九郎が早朝から訪ねて来たので、源三郎はこれから外出しようとするのを暫く見合せて注意ぶかい耳を引き立てていた。こういう見張り人がそばに控えているので、半九郎も少し言いそそくれたが、生一本《きいっぽん》な彼の性質として、自分の思っていることは直ぐに打ち出してしまいたかったので、彼は思い切って言った。
「さて市之助。遠慮なく頼みたいことがある」
「改まって何だ」
「半九郎は金が要《い》る。二百両の金を貸してくれぬか。といっても、お身も旅先でそれだけの貯えもあるまい。お身は京の刀屋に知るべがあると聞いている。おれの刀は相州《そうしゅう》物だ。その刀屋に相談して、二百両に換えてはくれまいか」
市之助も少し眉を寄せた。
「お身が大事の刀を売りたい……。思いも寄らぬ頼みだが、その二百両の要《い》りみちは……」
半九郎は源三郎を横目に見ながら言った。
「京の鶯《うぐいす》を買いたいのだ」
「京の鶯
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