欠」、第3水準1−86−31]待《かんたい》したが、日を経るにしたがって彼はだんだんに増長して、傲慢無礼《ごうまんぶれい》の振舞いがたびかさなるので、鄭成功もしまいには堪えられなくなって来た。且《かつ》かれは清国の間牒《かんちょう》であるという疑いも生じて来たので、いっそ彼を殺してしまおうと思ったが、前にもいう通り、彼は武芸に達している上に、一種の不死身《ふじみ》のような妖僧であるので、迂闊に手を出すことを躊躇《ちゅうちょ》していると、その大将の劉国軒《りゅうこくけん》が言った。
「よろしい。その役目はわたくしが勤めましょう」
 劉はかの僧をたずねて、冗談のように話しかけた。
「あなたのような生き仏は、色情のことはなんにもお考えになりますまいな」
「久しく修業を積んでいますから、心は地に落ちたる絮《わた》の如くでござる」と、僧は答えた。
 劉はいよいよ戯《たわむ》れるように言った。
「それでは、ここであなたの道心を試みて、いよいよ諸人の信仰を高めさせて見たいものです」
 そこで美しい遊女や、男色《なんしょく》を売る少年や、十人あまりを択《え》りあつめて、僧のまわりに茵《しとね》をしき、
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