った。
それが初めは順に進み、さらに曲がって行き、逆に行き、百回も二百回も繰り返しているうちに、彼は疲れ切って倒れ伏してしまった。やがて夜が明けたので、友達はその男を堂の上に連れて来て、おまえは何しに来たのかと詰問すると、彼はあやまり入って答えた。
「わたくしは泥坊でございます。お宅へ忍び込みますと、低い垣が幾重にも作られて居ります。それを幾たび越えても、越えても、果てしがないので、閉口して引っ返そうとしますと、帰る路にもたくさんの垣があって、幾たび越えても行き尽くせません。結局、疲れ果てて捕われることになりました。どうぞ御存分に願います」
友達は笑って彼を放してやった。そうして、宋にむかって言った。
「きのうあの泥坊が来ることを占い知ったので、たわむれに小術を用いたのです」
「その術はなんですか」
「奇門の法です。他人が迂闊におぼえると、かえって禍いを招きます。あなたは謹直な人物である。もしお望みならば御伝授しましょうか」
折角であるが、自分はそれを望まないと宋は断わった。友達は嘆息して言った。
「学ぶを願う者には伝うべからず、伝うべき者は学ぶを願わず。この術も終《つい》に絶え
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