弟三人を殺し、貯蓄の財貨をことごとく掠《かす》めて去った。役人が来て検視の際に、古い箱のなかから戯場《しばい》の衣裳や松脂の粉を発見して、ここに初めてかれらの巧みが露顕したのであった。
 これは明《みん》の崇禎《すうてい》の末年のことである。

   強盗

 斉大《せいだい》は献県の地方を横行する強盗であった。
 あるとき味方の者を大勢《おおぜい》連れて或る家へ押し込むと、その家の娘が美婦《びふ》であるので、賊徒は逼《せま》ってこれを汚《けが》そうとしたが、女がなかなか応じないので、かれらは女をうしろ手にくくりあげた。そのとき斉大は家根に登って、近所の者や捕手の来るのを見張っていたが、女の泣き叫ぶ声を聞きつけて、降りて来てみるとこの体《てい》たらくである。彼は刃をぬいてその場に跳《おど》り込んだ。
「貴様らは何でそんなことをする。こうなれば、おれが相手だぞ」
 餓えたる虎のごとき眼を晃《ひか》らせて、彼はあたりを睨みまわしたので、賊徒は恐れて手を引いて、女の節操は幸いに救われた。
 その後に、この賊徒の一群はみな捕えられたが、ただその頭領の斉大だけは不思議に逃がれた。賊徒の申し立てに
前へ 次へ
全29ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング