条がなかったのが嘆きのうちの喜びで、婿も※[#「女+息」、第4水準2−5−70]も厚い手当てを加えられて数月の後に健康の人となった。そうして、盲目同士の夫婦はむつまじく暮らした。
怪鳥の正体はわからない。伝うるところによると、墓場などのあいだに太陰積尸《たいいんせきし》の気が久しく凝るときは化《け》して羅刹鳥《らせつちょう》となり、好んで人の眼を食らうというのである。
平陽の令
平陽《へいよう》の令《れい》を勤めていた朱鑠《しゅれき》という人は、その性質甚だ残忍で、罪人を苦しめるために特に厚い首枷《くびかせ》や太い棒を作らせたという位である。殊に婦女の罪案については厳酷をきわめ、そのうちでも妓女《ぎじょ》に対しては一糸を着けざる赤裸《あかはだか》にして、その身体《からだ》じゅうを容赦なく打ち据えるばかりか、顔の美しい者ほどその刑罰を重くして、その髪の毛をくりくり坊主に剃《そ》り落すこともあり、甚だしきは小刀をもって鼻の孔をえぐったりすることもあった。
「こうして世の道楽者を戒《いまし》めるのである。美人の美を失わしむれば、自然に妓女などというものは亡びてしまうことになる。
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