の声音《こわね》までが同じであるので、婿の家も供の者も、どちらが真者《ほんもの》であるか偽者《にせもの》であるかを鑑別することが出来なくなった。さりとて今夜の婚儀を中止するわけにも行かなかったと見えて、ともかくも婿ひとりに※[#「女+息」、第4水準2−5−70]《よめ》ふたりという不思議な婚礼を済ませて、奉公人どもはめいめいの寝床へ退がった。
 舅《しゅうと》も自分の室《へや》へはいって枕に就いた。
 それから間もなく、新夫婦の寝間からけたたましい叫び声が洩れきこえたので、舅は勿論、家内一同がおどろいて駈け付けると、婿は寝床の外に倒れ、ひとりの※[#「女+息」、第4水準2−5−70]は床の上に倒れ、あたりにはなま血が淋漓《りんり》としてしたたっているので、人びとは又もや驚かされた。
 それにしても他のひとりの※[#「女+息」、第4水準2−5−70]はどうしたかと見まわすと、梁《はり》の上に一羽の大きい怪鳥《けちょう》が止まっていた。鳥は灰黒色の羽《はね》を持っていて、口喙《くちばし》は鈎《かぎ》のように曲がっていた。殊に目立つのはその大きい爪で、さながら雪のように白く光っていた。ひとり
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