ので、夫もただ驚くばかりで、どうする術《すべ》も知らなかった。妻は泣いて語った。
「ゆうべ寝る時分には別に何事もなく、ただ下半身がむず痒《かゆ》いので、それを掻くとからだの皮が次第に逆立って来たようですから、おそらく痺癬《ひぜん》でも出来たのだろうかと思っていました。すると、五更《ごこう》ののちから両脚が自然に食っ付いてしまって、もう伸ばすことも縮めることも出来なくなりました。撫でてみると、いつの間にか魚の尾になっているのです。まあ、どうしたらいいでしょう」
 夫婦はただ抱き合って泣くばかりであるという。
 致華はその話を聞いて、試みに供の者を走らせて実否《じっぷ》を見とどけさせると、果たしてそれは事実であると判った。但し致華は官用の旅程を急ぐ身の上で、そのまま出発してしまったために、人魚ともいうべき徐氏をどう処分したか、彼女を魚として河へ放すことにしたか、あるいは人として家に養って置くことにしたか、それらの結末を知ることが出来なかったそうである。

   金鉱の妖霊

 乾※[#「鹿/几」、313−3]子《かんきし》というのは、人ではない。人の死骸の化《け》したるもの、すなわち前に書
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