しやと思っていると、果たして忰は二階へあがって来たが、父の死骸がこの体《てい》であるのを見て、あっ[#「あっ」に傍点]と叫んで仆《たお》れてしまった。その声を聞きつけて、隣りの人は二階からのぞいたが、これも驚いて梯子からころげ落ちた。
 こういう始末であるから、劉はますます窮した。それでも逃げることは出来ない。逃げれば追いかけて来て掴み付かれる虞《おそ》れがあるので、我慢に我慢して描きつづけていると、そこへ棺桶屋が棺を運び込んで来たので、劉はすぐに声をかけた。
「早く箒を持って来てくれ。箒草《ほうきぐさ》の箒を……」
 棺桶屋はさすがに商売で、走屍などにはさのみ驚かない。走屍を撃ち倒すには箒草の箒を用いることをかねて心得ているので、劉のいうがままに箒を持って来て、かの死骸を撃ち払うと、死骸は元のごとく倒れた。気絶した者には生姜湯《しょうがゆ》を飲ませて介抱し、死骸は早々に棺に納めた。

   美少年の死

 京城の金魚街に徐四《じょし》という男があった。家が甚だ貧しいので、兄夫婦と同居していた。ある冬の夜に、兄は所用あって外出し、今夜は戻らないという。兄嫁は賢《さか》しい女であるので、
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