しました。他の眷族《けんぞく》どもも狼狽して、皆ばらばらと逃げ去ってしまったので、あとは元のようにひっそりと鎮まりました。夜が明けてから神坐のあたりを調べると、なま血のあとが点々として正門の外までしたたっているので、李はその跡をたずねて、山を南に五里ほども分け入ると、そこに一つの大きい穴があって、血のあとはその穴の入口まで続いていました。
「化け物の巣窟はここだな。どうしてくりょう」
 李は穴のあたりを見まわって、かれらを退治する工夫を講じているうちに、やわらかい草に足をすべらせて、あっ[#「あっ」に傍点]という間に穴の底へころげ落ちました。穴の深さは何十丈だか判りません。仰いでも空は見えないくらいです。所詮《しょせん》ふたたびこの世へは出られないものと覚悟しながら、李は暗いなかを探りつつ進んでゆくと、やがて明るいところへ出ました。そこには石室《いしむろ》があって、申陽之洞《しんようのどう》という榜《ふだ》が立っています。その門を守るもの数人、いずれも昨夜の妖怪どもで、李のすがたを見てみな驚いたように訊《き》きました。
「あなたは一体何者で、どうしてここへ来たのです」
 李は腰をかがめ
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