て丁寧に敬礼しました。
「わたくしは城中に住んで、医者を業としている者でございますが、今日この山へ薬草を採りにまいりまして、思わず足をすべらせてこの穴へ転げ落ちたのでございます」
それを聞いて、かれらは俄かに喜びの色をみせました。
「おまえは医者というからは、人の療治が出来るのだろうな」
「勿論、それがわたくしの商売でございます」
「いや、有難い」と、かれらはいよいよ喜びました。「実はおれたちの主君の申陽侯が昨夜遊びに出て、ながれ矢のために負傷なされた。そこへ丁度、お前のような医者が迷って来るというのは、天の助けだ」
かれらは奥へかけ込んで報告すると、李はやがて奥へ案内されました。奥の寝室は帷《とばり》も衾《よぎ》も華麗をきわめたもので、一匹の年ふる大猿が石の榻《とう》の上に横たわりながら唸《うな》っていると、そのそばには国色《こくしょく》ともいうべき美女三人が控えています。李はその猿の脈を取り、傷をあらためて、まことしやかにこう言いました。
「御心配なさるな。すぐに療治をしてあげます。わたくしは一種の仙薬をたくわえて居りますから、それをお飲みになれば、こんな傷はたちまちに癒るばか
前へ
次へ
全23ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング