、今更どうすることも出来ないので、しばらく軒下に休息して夜のあけるのを待つことにしていると、たちまちに道を払う警蹕《けいひつ》の声が遠くきこえました。
「こんな山奥へ今ごろ威《いか》めしい行列を作って何者が来るのか。鬼神か、盗賊か」
忍んで様子を窺うに如《しか》ずと思って、かれは廟の欄間《らんま》へ攀《よ》じのぼり、梁《はり》のあいだに身をひそめていると、やがてその一行は門内へ進んで来ました。二つの紅い燈籠をさきに立てて、その頭分《かしらぶん》とみえる者は紅《あか》い冠《かんむり》をいただき、うす黄色の袍《ほう》を着て、神坐の前にある案《つくえ》に拠って着坐すると、その従者とおぼしきもの十余人はおのおの武器を執って、階段《きざはし》の下に居列びました。その行粧《ぎょうそう》はすこぶる厳粛でありますが、よく見ると、かれらの顔かたちはみな蒼黒く、猿のたぐいの※[#「けものへん+矍」、261−18]《かく》というものでありました。
さては妖怪|変化《へんげ》かと、李は腰に挟んでいる箭《や》を取って、まずその頭分とみえる者に射あてると、彼はその臂《ひじ》を傷つけられて、おどろき叫んで逃げ出
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